1. はじめに
平成30年度税制改正において、株式対価M&Aに係る株主の株式譲渡益課税の繰延制度が創設され、自社株対価TOB実施の期待が高まっています。自社株対価TOBといえば、平成23年度の産業活力再生特別措置法(以下、産活法)改正により、会社法上の現物出資規制や有利発行規制等が緩和されましたが、当該特例が活用された実例はありません。
今回の税制改正により、自社株対価TOBの実施ハードルが緩和されたのに加えて、産業競争力強化法の改正により、自社株対価TOB以外の株式対価M&Aの活用場面が広がります。
本稿では、株式対価M&Aに係る平成30年度税制改正及び産業競争力強化法の改正の内容および当該改正がM&A実務に与える影響について解説致します。尚、本文中、意見にわたる部分は、筆者の個人的な見解となります。
2. 平成23年度産活法改正
上述の通り、平成23年度の産活法の改正により、従前は自社株対価TOBを実施するにあたり検討を要していた会社法上の問題点に対して、以下の特例が創設されました(平成26年度以降は産活法廃止に伴い、産業競争力強化法において同様の定めがあります。)。
当該産活法の改正により、日本企業による自社株対価TOB実施が期待されていましたが、現在まで当該特例が活用された実例はありません。これは、以下のように税務上の取扱いがその理由とされてきましたが、これらのハードルが平成30年度税制改正で解消されることになります。
3. 平成30年度税制改正
(1) 株式対価M&Aに係る課税の繰延制度の内容
平成30年度税制改正大綱及び同法律案によりますと、産業競争力強化法の「特別事業再編計画」の認定を平成33年3月31日までに受けた事業者の行ったその「特別事業再編計画」に基づく産業競争力強化法の「特別事業再編」により、株主がその有する株式を譲渡し、その認定を受けた事業者の株式の交付を受けた場合には、法人税及び所得税法上、その譲渡した株式の譲渡損益の課税を繰り延べることとされ、自社株対価TOB実施のハードルが1つ解消されたと言えます。
(2) 特別事業再編計画の内容
本課税の繰延制度の適用を受けるためには、産業競争力強化法の「特別事業再編計画」の認定を受ける必要があります。ここでいう「特別事業再編」とは、以下のいずれの要件も充足する再編をいいます。
従って、以下のような再編は「特別事業再編」に該当しないため、本課税の繰延制度の適用対象外となる点に留意が必要になるものと考えます。
また、仮に対象会社の株主が日本国外に所在する場合には、国外の法令に基づき現地で課税が行われる可能性も考えられます。従って、特に外国法人を買収するようなケースにおいては、個別の案件ごとに株主の所在地国の税制も含めた慎重な検討を要するものと考えます。
4. 産業競争力強化法の改正
税制改正に加えて、産業競争力強化法の改正も行われる予定であり、株式対価M&Aに関する主な項目として、以下の項目が改正されます。
なお、既存の子会社等の株式を追加取得する場合は、改正産業競争力強化法の「特別事業再編」には該当しない(「事業再編」として取り扱われる)ため、会社法上の特例の適用対象にはなりますが、株式譲渡益課税の繰延制度の適用対象外となる点に留意が必要になります。
また、今回の産業競争力強化法の改正により、相対の株式対価M&Aも会社法の規制緩和対象となること、当該M&Aについても課税の繰延制度(平成30年度税制改正)の対象となることから、非上場企業に対する株式対価での買収が円滑化されることが期待されています。これにより、事業承継の手法が多様化する可能性が考えられます。
5. おわりに
株式対価M&Aは、自社の現金を使用せずに他社を買収できるため、手元資金に余裕のない新興企業等にとって、大規模な買収が行いやすくなる等の意義があり、欧米では一般的となっているM&A手法です。今回の改正が、日本企業によるM&Aの促進に繋がり、ひいては、日本企業のグローバルにおける競争力向上に繋がることを期待しています。
GCA税理士法人では、M&A関連税制、グループ内組織再編及び事業承継M&A等に関するポイントコンサルティングをお請け致しております。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせ下さいませ。
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