1. はじめに
昨年12月14日に『平成31年度税制改正大綱』が公表されました。
今回の税制改正では、消費税率引き上げに伴う住宅ローン控除の拡充等の個人所得課税の見直し、資産課税においては個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設、法人課税においては租税特別措置法の中小企業向け特例措置の適用範囲の見直し、国際課税においては過大支払利子税制における課税の強化等の措置が講じられることとなります。
M&A/組織再編関連での改正事項については、特段大きな改正はなく、株式交換等の後に逆さ合併が見込まれている場合における株式交換等適格要件の緩和、三角組織再編成における対価要件の拡充のみとなります。
本稿では、平成31年度税制改正における組織再編関連の改正内容について解説致します。尚、文中、意見にわたる部分は筆者の個人的な見解となります。
2. 株式交換等の後に逆さ合併が見込まれている場合における株式交換等適格要件の緩和
これまで、下図のような、株式交換等実施後に逆さ合併の実施が見込まれている場合は、当該株式交換等は税制非適格に該当していましたが、今回の改正により、税制適格に該当することとなります(逆さ合併が税制適格の場合に限る)。
株式交換等の後に、株式交換等完全子法人を合併法人、株式交換等完全親法人を被合併法人とする逆さ合併の実施が見込まれている場合には、以下の支配関係継続要件に抵触するものとして、当該株式交換等は税制非適格に該当していました。
①完全支配関係継続要件(100%グループ内の株式交換)
②支配関係継続要件(50%超100%未満グループ内の株式交換等)
③完全親子関係継続要件(共同事業を営むための株式交換等)
株式交換等の後に、株式交換等完全子法人を合併法人、株式交換等完全親法人を被合併法人とする税制適格逆さ合併の実施が見込まれている場合には、上記支配関係継続要件について、その税制適格合併の直前までの関係継続の有無により判定することとなります。
平成29年度税制改正に伴い、スクイーズアウト(全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式等売渡請求による完全子会社化)が株式交換等として組織再編税制の取扱いを受けることとなり、金銭対価の組織再編成に係る適格要件が一部緩和されましたが、一方で、逆さ合併が予定されているスクイーズアウトは税制非適格に該当してしまう問題が発生していました。
そのため、株式交換等完全子法人がビジネス上の許認可を保有している等の理由により、株式交換等の後に同子会社を合併法人として逆さ合併を実施したいというニーズがある場合でも、株式交換等完全子法人の時価評価課税の有無を検討する必要がありましたが、本改正後は当該時価評価課税の有無の検討が不要となります。
3. 三角組織再編成における対価要件の拡充
これまで、税制適格三角組織再編成を行うための対価要件は、直接保有の完全親会社株式を対価とする場合のみ認められていました。今回の改正により、間接保有の完全親会社株式を対価とする三角組織再編成(下図のような事例)についても対価要件を充足することが可能となります。
税制適格性
税制適格三角合併等を行うための対価要件は、合併法人等の直接完全親会社の株式を対価とする場合に限られていたため、間接完全親会社の株式を合併等交付対価とする場合には税制非適格合併等に該当していました。
合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の繰延
三角合併を行う場合において、合併法人等の株主が合併法人等の直接完全親会社の株式の交付を受ける場合には譲渡損益が繰延べられていましたが、間接完全親会社株式の交付を受ける場合には、株式譲渡損益が発生していました。
税制適格性
間接完全親会社の株式を三角合併等交付対価とする場合においても、対価要件を充足することとなります。
合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の繰延
間接完全親会社の株式の交付を受ける場合においても、譲渡損益が繰延べられることとなります。
これまでは、間接保有の完全親会社株式を対価とする税制適格三角組織再編成と同等の効果を得るためには、下記のような多段階再編を検討する必要がありました。
■ S1社(株式交換完全親法人)が直接保有の完全親会社株式(P1株式)を対価として株式交換を行い、その後にS2社とS3社が合併を行う
■ S1社がS2株式をP1社へ現物分配し、その後、S2社が直接保有の完全親会社株式(P1株式)を対価としてS3社と合併を行う
本改正後は、多段階再編を行う必要がなくなるケースが出てくると考えられ、上場会社等の完全孫会社の三角組織再編における活用が見込まれます。
4. おわりに
本稿では、平成31年度税制改正における組織再編関連の改正内容を解説致しました。組織再編税制が柔軟化されることとなり、今後、活用場面が出てくることが期待できますが、M&A実務への影響は限定的と考えられます。
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